タロット体験日記

2006年の春。

私はシングルマザーとして6年目を迎えていた。

子供は11歳。スポーツクラブに所属したり、子供の健全な育成のためにと、明るい西海岸みたいな友人たちと積極的に過ごしていた。みんな屈託なく素敵な、日の光をたっぷりと毛穴から放出しているような人達だったので本当に安心して遊ぶことができたし、健全で楽しかった。

自分が牧羊犬にでもなったようなのびのびとした時間と空間と体験だった。ずっと「自分」はインドアで映画や漫画やマルキ・ド・サドや澁澤龍彦が好きな人間だったとはその瞬間は忘れていたし、その仲間たちにはいう必要も無かった。

そんな中で少し気になる人、この人は次のパートナーになる可能性があるのかな…?と思う気配の人が現れた。

ある日の朝唐突に「お母さん、タロットカードってどうやるの?」と今まで一度もカードに興味を持たなかった長男が聞いてきた。

「あら珍しい、いいよ、教えてあげるよ。私が占われる側で、あなたが術者ね」

シャッフルし、展開。口から心臓が飛び出そうなほどにびっくりした。

カードは「今、あなたはほのかな恋心を抱いていますね、その人は近くにいてとても親切です。その人とお付き合いすると______破滅します!」

10枚目の塔のカードが脳内で大爆音で崩れ去る音すら聞こえるようだった。

長男にはその時のリーディングの内容自体は教えずに汗をだらだらかきながら、それでも平静を保ちながらその日のコーチは終わった。そしてそれから一度も長男は再びタロットカードに見向きもしなくなり、私のほのかな恋心も完全鎮火したのだった。

それから数週間後、いつもの仲良しグループの中にいるS君のお兄さん、Mさんが留学先より一時帰国することになり、トントンと仲良くなり、顔を合わせて2日目にタロットを引くことに。

カードは開くたびに天使がラッパを吹き、花をまき散らし、「おめでとうございます!おめでとうございます!新しい恋の始まりです!」とピンクや金色の紙吹雪が舞い踊っていた。

Mさんとはまだ顔を合わせて2度目。

(…まさか、そんな…ええええ…)驚きと、唐突な直感、この人は私の恋人になるだろう、という想いはその場では言えるわけもなく、なんとか取り繕い、「素敵な恋人ができそうですね、良かったですね」とその日は終わり、Mさんは留学先に帰っていった。

その後、その人が今の夫となり平和に過ごしている。

ありがとうタロット。あの時のほのかな恋心を鎮火してくれたり、教えてくれて。

[ タロット体験日記 ]ブログ2018/08/19 22:55